2011年01月28日

『イチジクコバチ』(サトウトシキ監督)

■「青春H」シリーズ最新作『イチジクコバチ』(サトウトシキ監督)を、サンプルDVDで見せて頂いた。すばらしかった。「映画」だった。

■去年、いわゆるピンク四天王の一人である佐藤寿保監督『名前のない女たち』を見た時、整合性だのバランスだのを度外視した、一生涯ロックンロールとでもいうべきガッツに強く打たれた。瀬々敬久監督の『ヘヴンズ ストーリー』も非常にインパクトのでかい映画だった。そして今、サトウトシキ監督が、映画学校在学中の生徒の脚本を使って、直球勝負に出た。それは現代版『少女ムシェット』とも言うべき怜悧な悲しみを湛えた青春映画だった。

■トシキさんは自分の本編デビュー作の監督であるし、シナリオの書き方や「創作」の在り方について絶対的な何かを叩きこんでくれた人。だから、俺がここでどう書こうが「どうせ褒めるんだろ」と思われても仕方がない。もういいんだ、そういうことは。この力強い映画に接して動揺しないなんて俺には出来ないですよ。

■高校生のみつ(水井真希)は、無職の父親(伊藤猛)とふたり暮らし。どうやら母親は家を出ていったらしい。父親は寝て起きてTVを見るだけの救いがたい腑抜けである。みつはそんな父親のそばを離れようとはしない。悪態一つつかず、まるで幼い妻のようにかいがいしく世話を焼く。周囲の者は「あの子、父親に監禁されている」と噂するが、みつは好き好んで父のそばにいるのだ。ある日、みつがバイトしていた出会い系サイトの管理人・慎吾(深澤友貴)がみつの家を訪ねる。みつがドアを開けた瞬間、運命の歯車は回り始める……。

■チラシなんかには「監禁」というきわどい字句が踊るが、これはピンク映画のタイトルが作品内容と無縁だったりするのと同じパターン。ある意味、みつは精神的な監禁状態を自ら作りだしているとも言えるが、主眼はちょっぴり歪んでいる少女みつの孤独な魂の彷徨を描くことにある。

■作品前半で印象的なのはみつと父親が黙々とご飯を食べるシーン。父娘はTVをつけっぱなしにして、会話もなく、ヒトの自然なる営みの一環としてメシを食う。ただそれだけの場面が、じゅうぶんな尺をとり、執拗に映し出される。ここで自問せざるを得ない。なんで父娘が無言で飯を食ってるだけなのに、こんなにイイ場面になってしまうのか。いやもっと直接的に言えば、非常にエロティックな雰囲気が醸成されてしまうのか。しかし、ある段階で父親は言う。「明日、メシいらないから」。その一言だけで、とりかえしのつかないことが始まるのだということがわかってしまう。永遠に元には戻れない事態が父娘を襲うのだと。その後の展開をここで語る愚は犯さない。

■みつを演じる水井真希がいい。むかしのジョアン・チェンみたいなアヒル口だが、端的に言って映画を映画たらしめる顔立ちなのだ。薄暗い家に閉じこもり、古びた絵本に読みふける謎めいた少女像は、個人個人がそれぞれ孤独を意識せざるを得ない、共同体の相互補助などというものが一切機能しない時代の空気を重く感じさせる。そして伊藤猛の殺伐としたたたずまいは、時代の闇そのものだ。彼が夜の商店街を彷徨する場面など、街に放たれた狂人のようで危険きわまりない。ヒトの存在感そのものが映画を牽引する。物語に整合性もバランスも必要ない。映画を映画たらしめる人間が動き出せば映画は映画になる、などとぶつくさ呟いてしまった。

■ここで自分が「映画、映画」とずいぶん乱暴な言葉遣いをしていることは承知している。しかしこれはもうそのようなものとして使用せざるを得ないし、そのように受け止めてもらうしかない。『イチジクコバチ』がまぎれもないサトウトシキ映画である、とするならば、その感触を言語化することのむずかしさを人は知っているはずである。

■何より驚くのは、そのスタイルの変化だ。初期作品を除くトシキさんの画というのは、カッチリ作り込んだフィックスの画を淡々と積み重ねていくことで、「透徹したまなざし」というものを現出させるスタイルだった。ここでは全編手持ちの自由なスタイルに変貌を遂げている。手触りとしては初期作品に近いが、ここまで人間たちの息遣いに密着したことはなかったのではないか。濃密で息が詰まりそうな映像世界は、本作品の主題とも不即不離。見た人と色々語り合いたいがしばしの我慢だ。また、ラストの展開についてもここには書けない。

■でも一つだけ言わせてもらえるならば、俺は不意打ちのようなラストの台詞に泣きました。やられた。

■『イチジクコバチ』はポレポレ東中野にて明日夜からレイトショー。必見!

http://www.mmjp.or.jp/pole2/
posted by minato at 17:41| 東京 ☀| Comment(6) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
イチジクコバチ、本日観賞。
自転車、テレビ、ちゃぶ台、裸足、カプセル
ホテル、男たち、孤独、愛、美しい、せつない、、、、、
最後のセリフ、、、落涙しました。
いま思い出して、また落涙。
Posted by A.K. at 2011年02月05日 00:31
いいですよね!

賛否が別れる映画ですが、届く人にはものすごく届く、というのはすなわち良い映画なのだと勝手に思っています。

わたしもラストのストレートな台詞は不意打ちで、思わず落涙…。
Posted by minato at 2011年02月05日 01:24
園監督の熱帯魚も見まして、非常に
素晴らしかったのですが、こと最後の
セリフについては、あちらの”人生は
****だよ!”よりも、
イチジクコバチのほうのが刺さりましたね。

Posted by A.K. at 2011年02月06日 01:21
熱帯魚まだ拝見していないのですよ。
見るつもりですけど。

みつのあの台詞はほんとヤラレタです。。
Posted by minato at 2011年02月06日 15:07
しかし青春Hシリーズは秀作を連発してますね。
先日も古澤監督の“Making of・”を借りて
見ましたが、劇場で見れなかったことを
心底後悔しました。で、古澤監督のことを
調べてたら、なんと先頃亡くなられた天才
ドラマー古澤良治郎さんの息子さんと知り
びっくり。西荻窪アケタの店で何度も見させて頂いておりました。知り合いが良治郎さんの“ね”のギタリストでした。


(低予算映画は、ジャズ系ミュージシャンと
縁があるのでしょうか。結び目のクレジットに宇波拓や千葉広樹の名前を見つけびっくり
したのも覚えてます。よく的確に才能ある
ミュージシャンを見つけられるものですね。)


Posted by A.K. at 2011年02月09日 17:36
じつは音楽にはそれほど詳しくないんです…。アケタの店も2回しか行ったことがなくて。古澤監督のお父様のことも存じ上げなくて。

ただ、こっそり自慢をさせて頂くと『結び目』の音楽に宇波さんを推薦したのはわたくしです。面識はまったくなかったのですが、直感的にこの人だと。そして宇波さんは古澤さんの監督作『トワイライトシンドローム デッドクルーズ』の音楽を担当しておいでです。

言われてみると、若松孝二のピンク映画なんか大体ジャズメンが担当してますよね。時代もあるんでしょうが、大雑把に言って、インディペンデンス魂が通底している、ということはあると思います。
Posted by minato at 2011年02月09日 19:15
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