2011年06月14日

『絵のない夢』(長谷部大輔監督)

■青春Hシリーズ『絵のない夢』(長谷部大輔監督)を試写で。実に感想を述べにくい作品だった。

■ビジュアル系バンドのボーカルに貢ぐため、からだを売ったバンギャルの真琴(もも)は、全盲で第一級の障害者手帳を持ち、かつ、麻薬の売人である関西弁の男、一郎(西本竜樹)と出逢う。意気投合した二人は一緒に暮らし始めるが、それは愛でも恋でも友情でもない、どうしようもない人間同士のどうしようもない慣れ合いに過ぎない。やがて二人の行く先々には、血と暴力が撒き散らされる――。

■この作品が描くのは、刹那的な快楽とエゴが入り乱れる、行き当たりばったりの暮らしそのものだ。行き当たりばったりの暮らしは当然ながら瓦解する。見る者はクズのような人間たちの道行きを、感情移入のとっかかりすら見いだせぬまま見つめ続けるしかない。善人は破壊され駆逐されるためだけに登場する。誰一人として精神的な成長を遂げず、誰一人として前向きに生きる希望など持つことはない。泥沼に落ちた人間は沼底に沈むだけである。それらがアンバランスな、かなり粗っぽい手つきで綴られていくのだが、作り手の鬱積した精神の脈動だけは変わらずに根底を流れ続ける。

■一郎が暮らしているのは上野オークラの二階だ。映画館の二階に暮らす主人公というのは『濱マイク』シリーズ以来ではなかろうか。しかもそれを演じているのは西本竜樹さん。『妖女伝説セイレーンXXX』の主演で、『MiLK』でも重要な役を務めて下さった方。個人的に好きだなあと思っていたのだが、最悪な男の役作りが堂に入っている。行動はとことん悪質でありながら、汚しきれない清潔感みたいなものがあって、嫌悪感を抱かせないのが不思議だ。一方、真琴を演じる「もも」のやせ細った体躯、小ぶりの乳房は、街の底で蠢く名もなき少女の生/性を痛々しく表象する。不貞腐れたような面構えも、不幸な生い立ちやら家庭環境の問題など色々想像させるが、役柄に関する過去や背景についての説明は一切ない。バンギャルという小さな共同体に棲息する彼女は、狭い世界であくせくと足掻き、むなしく青春を浪費する。この世界にはそんな少女がたくさんいるのだ。だが作り手は彼女らを断罪することも突き放すこともしない。

■作り手は物語の「段取り」を無視し、キャラクターの暴走を放置し、プロットの安定した流れをぶった切る。谷崎の『春琴抄』を嘲笑するような「視覚」の取り扱いなど、きわめて悪趣味だが、倫理なき世界への耽溺そのものが映画だとする考え方は、やっぱり否定しがたいパワーに満ちているのだった。

■個人的な定義によると、リアルな青春映画とはすなわち「地獄巡りの旅」である。本作のヒロインももちろん地獄めぐりを踏襲する。そして悲惨さを突きぬけた先に訪れるエンディングは、見事に「映画」だった。

http://www.artport.co.jp/cinema/h2/?/movie/03/
ポレポレ東中野で7月9日(土)よりレイトロードショー
posted by minato at 21:28| 東京 ☁| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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