2011年10月16日

『トーキョードリフター』(松江哲明監督)『アントキノイノチ』(瀬々敬久監督)

最近、試写で見た作品について少し。


『トーキョードリフター』(松江哲明監督)

いわゆる「3.11」以降の映画、というものが世の中にはあるという。でもおれは見たことがない。いや見る機会はあったが、本音をいえば「見たくない」のだ。震災の翌日から、仕事の打ち合わせなどで何度も新宿に出た。歩きながら街の様子を脳裏に刻みつけていった。すでに放射性物質の話題でもちきりだったから、外出するだけで気が重かった。そして、津波に遭ったわけでもなく、避難区域でもない土地に暮らす人間がそんなことで気が重くなってしまうことで、とても後ろめたい思いをした。あの途方に暮れた感じ。非常事態そのもののような街の空気。恐怖と不安と悲しみばかりを突きつけて来るTVの映像。思考をパンクさせるネットのニュース。一ヶ月経つと、師匠のことがあり、仕事も重なって、肉体的/精神的にとことん追い詰められた。今はだいぶ落ち着いてはいるけれど、あの頃のことを振り返りたいとは少しも思わないし、悪いことに、すべては現在進行中なのだ。

『トーキョードリフター』は五月のある一夜に撮られた作品で、『ライブテープ』同様、シンガーの前野健太が、街角に立ちギター一本で弾き語りする様子を捉えた作品だ。音響設計の見事さは素人でもわかる。意図的に「ビデオテープ」を想起させる画質やほとんど懐かしい感じの字体(裏ビデオってあんな感じの字体が多かった)など、狙ってきた導入。やがて主人公は単車に乗って到着する。あとはあちこちの夜の町で歌う前野健太が淡々と映し出されていく。いつしか雨が降り始め、それは朝まで続くだろう……。正直、自分はこの方の歌があまり好みではないのだが、皮肉でも何でもなく、単車を走らせながらAKB48の「ヘビーローテーション」のフレーズを自然に口ずさむ場面がいちばんよかった。あの頃の街の気分、街の空気、そんなものを、あの曲を「口ずさむ」という仕草でぜんぶ背負ってしまっていた。そしてそれこそが本作の狙いなのだと思った。

『ライブテープ』はドキュメンタリーが生成される場と時間と方法論をあけすけに開示することによって、誰にでも楽しめる作品になっていた。今回はそうした意匠をあえて捨てている。大きな現実を前に、そうしたメタな演出は不誠実にあたるからだ。では本作の生身の表現は結果的に誰に何をもたらしたのか。自分はこの作品を見ながら(ああ、これは『ライブテープ』殺しだな)と思った。それは自己の方法論に対する一種の否定だ。断絶かもしれない。『ライブテープ』が余すところなく捉えていた「幸福なお正月」はもう二度と来ないと明言したようなものである。

こうした見方はいわば松江哲明という監督の作品歴、その文脈に沿ったものだ。それが正しいことなのかどうかはわからない。ミュージシャンのファンは自分とはまるで違った目で見るだろうし、突き放した見方をすればこれは端的に「記録映像」である。それでいいとも言えるし、それでいいの? との疑義も湧く。自分は複雑な感情が渦巻くまま試写室を出た。

自分がうまく感想を言えないことに対する言い訳ではないけれど、この作品に関する明快な批評、明快な絵解きはいらないんじゃないかという気はした。雨に濡れる夜の渋谷にごろんと転がった映像――即物的なまでにそうした感触を残す作品である。


12月10日よりユーロスペース他にて公開
http://tokyo-drifter.com/
公式サイト



『アントキノイノチ』(瀬々敬久監督)

遺品整理の仕事を始めた吃音症の青年(岡田将生)と、心に傷を負った同僚の女(榮倉奈々)が、少しずつ心を通わせていく姿を丹念に描いたヒューマンドラマ――ならばどれほど良かっただろう。いや、基軸となるのはそうしたドラマであり、傷ついた男女の触れあいにはぐっときたのだが、それ以外の要素が過剰なまでに積み重なり、最後の方ではドラマを追い切れなくなってしまった。俳優陣が若手もベテランもみな好演しているのでとても惜しい気がした。悔しかった。

主演のふたりがとにかくいい。イケメンをかなぐり捨てた岡田将生の独特の芝居。痛みを抱えた生を余儀なくされる榮倉奈々の可憐さと痛ましさ。二人の過去はまったくもって辛いものなんだけど、「辛さ」を背負った仄暗い感じが滲み出ていた。主人公に「罪」の刻印を押して退場する染谷将太も文句なしの存在感。彼が退場するショットは久々に「うおっ」と唸った。主人公たちの同僚を演じる原田泰造もお見事。ある場面で彼は「ブレーカーある?」と言うんだけど、あの自然さというか「現場の人」の感じにはちょっと驚いた。

また、人物たちが生活を営む場所、土地、風景への徹底したこだわりはさすがに「映画」だった。孤独死する人物たちの住む土地、部屋の様子など、いかにも瀬々監督らしい風景論的世界が広がっていて、ひたすら唸らされる。それだけに、どうしてそこまでして客を泣かせようとするのかとキツかったです。原作がそうなのかもしれませんが。


11月ロードショー
http://antoki.jp/index.html
公式サイト
posted by minato at 02:10| 東京 🌁| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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