2012年02月07日

『KOTOKO』(塚本晋也監督)

■『KOTOKO』(塚本晋也監督)を試写で拝見。Cocco×塚本晋也とあれば多少痛い目に遭うだろうなあ、と覚悟はしていたが、痛撃された。自傷、暴力、流血といった「痛い」描写はふんだんに出てくる。話の展開も、救いがないといえばない。でもそうした表層の奥底に、ずっと変わずに湛えられた何かがあって、ひたすらそこを見つめさせられていたような気がする。物語として何かが発展するというより、ひとつの宇宙を覗きこまされた感じ。臓器や心臓の鼓動が聞こえる血まみれの母胎に閉じ込められた感じ……。そう導くのは言うまでもなくCoccoである。

■Coccoは強く深いまなざし、肉体のラインそのもの、そして歌唱とダンス、モノローグによって、この世に「演技」など最初っからなかったかのようにそこへ存在する。ただそこにいるだけで、人間としての迫力を感じさせるのである。小手先の芝居など一切やらない。そんなものは彼女において不要なのだ。その強さ、美しさ、逞しさを見ていると、次第に彼女の前にひれ伏したくなってしまう。それ以前に塚本晋也がひれ伏し、魅入られ、それでもなんとか格闘しようとしている。そこに映し出されるのは育児やトラウマに苦悩し、血まみれで七転八倒している「弱い女」にすぎないのに。とはいえ彼女は明らかに一線を越えてしまっている。それを他人ごとではなく自分のこととして描くという姿勢に感動があった。べつに『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を持ち出す必要はないけれど、あの映画のビョークに対するトリアーのアプローチとはまったく逆だと思った。

■自分はこのヒロインが目の前に現われたら、二秒で恋に落ちる自信がある。ちょうど劇中の田中(塚本晋也)がそうだったように。田中の彼女への接し方、寄り添い方は、自分にはとてもよくわかる。だから決してこちらから彼女に近寄ってはいけないとも思った。でも迫られたら絶対逃げられないな……などといらぬ妄想をしてしまったよ。あえて言い添えておくが、『KOTOKO』のCoccoみたいな女がいわゆるファム・ファタールであり、悪女なのだよ。いやほんとに。

■この映画は「育児」が大きなモチーフとなっているが、そこだけに主題を限定しているわけではない、という前提で話を進める。あくまで個人的な見解だが、この映画に描かれる女性の精神状態は「季節」という気がする。多くの女性に少なからず潜在しているものではないかと思う。たいていの女性はうまく折り合いをつけて、この季節をやり過ごしていく。そのためには他者が必要となる。自己の相対化が図られることによって、希望の兆しが見え始める。他者を巻き込み、地獄の季節に心身を浸しながらも、最終的には再生を図っていく。それが普遍的なありようなんじゃないかと思うし、こういった表現がいいかどうかはわからないけれども、女性映画とはその季節を切り取る作業であると自分は考えている。

■『KOTOKO』も当初、そういった普遍を描こうとしているのだと思っていた。ところがそこに留まることはなかった。「映画のお約束としてこういうことはしてはいけない」といった前提を突き崩す描写がいくつもあるし、「お客さんのことを考えると、そういう展開にならないほうがいい」という展開もある。「商業映画」の「暗黙の了解」を、『KOTOKO』のヒロインはやすやすと破壊する。それはもしかすると、集団生活を送る男たちが何となく醸し出している「空気」のようなものを壊しているのかもしれない。だから「感情移入」を拒むような展開がいくつかある。でもお約束としての「感情移入」を超えた領域に足を踏み入れることができるのも、映画ならではの、あるいは、女性映画ならではの豊かさなのだ。男性にも女性にも、誰にでも勧めたいという映画ではないけれど、個人的には学ぶところがたくさんあったし、こういう世界が好きなんだと改めて思った。ラスト2カットがとても秀逸でした。

■現在二稿まで進めているシナリオに、重複するモチーフ、描写、イメージがあり、(まいったなぁ)と狼狽しております……。

http://www.kotoko-movie.com/

(映画『KOTOKO』公式サイト)

4.7よりロードショー
posted by minato at 18:38| 東京 🌁| Comment(2) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
観てみたいです
Posted by SKY at 2012年05月13日 11:15
好き嫌いはあると思いますが自分は大好きな映画でした
Posted by minato at 2012年05月22日 19:30
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