2015年07月28日

『封印された旋律〜ガス室に消えた音楽家たち』

ヒストリーチャンネルで放映していた『封印された旋律〜ガス室に消えた音楽家たち』。傑作だった。2001年に制作された2時間のドキュメンタリー。詳細は下記。

https://www.historychannel.co.jp/detail.php?p_id=00223

ユネスコの平和芸術家に日本人として初めて任命されたヴァイオリニスト、二村英仁氏は、チェコのテレジンにある収容所跡へ向かう。そこでアウシュビッツで命を落としたユダヤ人作曲家、ギデオン・クラインを知った氏は、彼が遺した楽譜を演奏会で演奏することを決意する。

ギデオン・クラインの短い軌跡を辿る旅が始まるが、それは必然的にホロコーストに向き合う旅、その時代の証言者たちと出会う旅となる。少しずつ見えて来るギデオンの素顔。見つかる新たな楽譜。絶えず視界を横切る膨大な、あまりにも膨大な数の犠牲者。ついに氏は生存者が暮らすイスラエルへ……。

「芸術とホロコースト」という大テーマ、その諸相が多角的に繊細に掘り下げられていく。若き日本人ヴァイオリニストが案内役となったことで、かえってホロコーストという事態が肌理に迫るものとして感じられた。同時に音楽が時間を超え、国境を越えてゆく凄いものなんだと改めて教えられた。

映画は死者を蘇らせる装置で、戯曲は古人の霊廟だ。楽譜もまた音の形で永遠なる芸術を蘇らせてきたが、時にはホロコーストによって消された人々の声を、言葉や視覚ではなく、言葉や視覚ではなく、息遣いとして、「声」として蘇らせ得るのだ。だが楽譜を手にした現在の演奏家は「声」を憑代となって表現せねばならない。

二村氏が蘇らせるギデオンの曲は、ひどく息苦しく神経質で、ネガティブな響き。1940年台初頭のチェコのユダヤ人の心理的な圧迫感、恐怖、絶望が「音楽」の形で現在に溢れだす。その息を飲む黒々とした感触。すぐに収容所へ連行されたためか、曲は二楽章の途中までしか書かれていない。

二村氏は葛藤する。演奏会の際に、中途半端に終わってしまう楽譜をそのまま演奏するのか、いくばくかのアレンジを施して体裁を整えるのか。最後に導き出される答えは詳らかにしないが、この作品は、氏の選択を「問いかけ」という言葉で表現した。……打ちのめされた。

ディレクターの古賀美岐さんって凄い方だなぁ、と思って検索したら、同姓同名のデイレクターの方が08年にヒマラヤで亡くなっていたとの記事を見つけた。ご本人かどうかはわからないけれど。ともかくこれは素晴らしいドキュメンタリーだった。
posted by minato at 05:58| 東京 ☁| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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